2019年12月17日火曜日

あきる野市長選、保守の牙城で勝利
8人の国会議員、19人の市町村長応援など相手陣営の総力戦はね返す 
あきる野9条の会事務局長
 前田(よし
市民に背を向けた市政
あきる野市は東京の西側にあり、人口約8万人、有権者6万6千人。米軍横田基地も近く、五日市憲法草案発見の地です。
市の負債総額は東京26市の中で最悪。旧秋川市時代からの開発優先の市政の失敗によるもの。懲りずに企業誘致を進め、進行中の土地区画整理事業34億もつぎ込もうとしています。その一方で行財政改革の名で小学生の入学祝いの鉛筆(2本)廃止、町内会・自治会活動や修学旅行への補助金カットなど、「節約」を市民に押し付けてきました。市内循環バス(るのバス)は市民から増発増便の強い要求があるのに予算がないと19年間1台のみの運行。
長く続いた開発重視の市政から市民生活重視の市政へのチェンジが求められていました。 
市民連合の取り組み、政治状況
「選挙で変えよう!市民連合あきる野」は178月に結成。衆議院東京25区で候補者一本化をめざして活動。 
民主党が政権をとったときに、東京では自民党がほぼ全滅しましたが、25区は自民党の井上信治氏が楽々と当選するところです。あきる野市、青梅市、昭島市に市民連合ができ、他の市町村では個人が参画して連絡会を作っています。
あきる野市長選挙取り組みは昨年3月から、候補者を一本化してたたかおうと市民連合で話しを進め、まず、市民要求を集め基本的な政策を協議し9月に成。市議会は定員21。その野党議員9政策を提示、市長選挙での共闘を呼びかけました。
野党といっても、政党として活動しているのは共産党のみ。立憲民主党と国民民主党の議員がいますが、党組織はありません。野党の会派は、「明るい未来を創る会」(以下「未来」)が5人(元自民と村木さんを含む保守系は3人、立憲と国民が各1人)、共産党3人、「くさしぎ」1人。
4年前の市長選挙では、今回勝利した村木候補と、自民党の1期目をめざす沢井候補、共産党が候補を出しました。この選挙では、現在の「未来」と共産党とで村木候補1本化での話し合いが不調に終わり、共産党は独自候補をたてたのです結果は村木候補は214票差で沢井候補に負けました。共産党候補は3829でした 

様々な困難、市民連合の活動中断
今回は野党共闘をめざしましたが、前回の遺恨を抱く議員や共闘は賛成だが候補者によるなどの意見が出されていました。市民連合はそのために苦心しました。
昨年秋に、村木さんが「立候補したい」と言っているとの情報が入りました。市民連合としては村木さんが立候補をするなら独自候補を擁立しても勝てないと考え、足踏み状態になりました。しかし、村木さんの立候補の表明はありませんでした。
市民連合は、野党議員をまとめるということで、「本気で!市政を変える会」という勉強会を企画し、現職の市議会議員たちを呼んで、発言する場をつくって、なるべくみんなが揃ってやっていけるように努力をしました。昨年11月の「市政を変える会」に「未来」は賛意を示しましたが、1人がメッセージを寄せ他は欠席。共産党と「くさしぎ」の4人が出席。出席した市議からは市政を変えたいという熱意が語られ、参加者や元市議からも切実な要求と「変えたい」という意見が出されました。野党市議とも個別に話し合いを持ちながら、3回の会を重ねましたが、5月末から参院選もあり市民連合の活動は中断。 
市民連合と村木さん協定
夏も終わりに近づいた819日に村木さん側と懇談会を持った席上で「市民連合の協力を得て市長選に出たい」との表明がありました。
市民連合は政策をすり合わせ、推薦を決定し、村木さんと①政策に合意する、②市民連合は村木さんを推薦する、③当選後も市民連合と定期的に協議を行うと協定し、9項目の政策協定を結びました。この時野党共闘は進んでいませんでしたが、いち早く共産党が「自主的支援」の声明を出し、立憲市議も続きました。
【政策協定(要旨)】
①武蔵引田駅北口の区画整理事業を凍結。計画的な負債の縮小②開発優先の市政を見直し、住民サービス重視の市政をめざす。③「るのバス」を、当初の計画だった3コース3台を実現させる。④憲法を守り、市政に生かす⑤原発再稼働反対。⑥CVオスプレイの横田基地配備撤回。⑦自然災害への備えは重要課題。安全・安心の徹底。⑧非核平和都市宣言を表明する。⑨地方自治法生かし、住民福祉の増進と住民参加型の市政実現を。
 1ヶ月の短期決戦
政策協定を結んだのが98日、投票日が106日、1ヵ月ありませんでした。まず『市政を変えよう市民集会』を922に開催。市民がいろんな要求を持ち寄って、9項目の政策と重なるようなスピーチを12名がして、村木さんが挨拶。その中で、「るのバス」や学校体育館のエアコン設置などの実現を言ました。ビラができてから、5日間で130名を集める集会ができました。
政策協定は結びましたが村木陣営のビラにはそが書かれていませんでした。そこで市民連合として「市政をチェンジ」というポスターを告示前に貼ろうと急きょ作成、3日間で500枚を貼り出しました。「未来」の元自民の議員も「このポスターを貼りたい」と言うほど好評でした。
村木陣営は村木英幸後援会というのが主体で村木さんの住んでいる菅生地域を中心とした後援会。市内全域にビラを配布することがでず、ほとんどが新聞折り込みという状況でした。そこで村木後援会名入りビラ1万枚を引き受け、市民連合として約2日間で配布しました
公示後は政策ビラ9000枚を市民連合が配布しています。政策カーも市民連合が2日間借り切り、政策協定をアピールしながら走らせました。政策の宣伝不足を感じ、重点政策をアピールするビラを作ろうということになり、市民連合の要求ビラをピンクの紙に輪転機で8000枚を一晩で作り各戸配布。これも非常に好評でした。政策を3つに絞り推していこうというのが市民連合の方針でした。
告示日の第一声には多くの野党市議が結集し、事実上の野党(議員)共闘となりました。 
相手陣営は総力戦
対抗する沢井陣営は、東京25区の井上信治衆議院議員が事実上の選対部長になって指揮。国会議員では自民の下村博文、石原伸晃、丸川珠代、片山さつき、中川雅治、朝日健太郎、公明の高木美智代の各氏が乗り込んできて、5070人くらいの個人演説会をやる。都議や西多摩をはじめ19人の市町村長も応援に入りました。野党共闘で追いつめられからくも当選した立川市長は「自分は危なかった。油断すると大変だ。共産市政に乗っ取られないようにしよう」と檄を飛ばしました。連合、医師会、私立幼稚園保育園協会など30近い各種団体が推薦。反共攻撃もすごかった。地元の地域紙は「共産系の市民団体」と書き、街頭演説で「共産市政にしてはならない」などと繰り返し、不審な電話世論調査は「自公が推す沢井か、共産が推す村木か」と印象操作。相手陣営はまさに総力を挙げて取り組んでいました。 
反共攻撃をはね返して
私たちは、精力的にビラを配布し、大きいプラスターや横断幕を作り毎朝夕駅頭で宣伝。ビラは受け取ってくれなくても、みんなプラスターなど見ていきます。電話をかける。また、反共攻撃には機敏に反撃。村木候補は「政党の支援は受けず、地元後援会、保守中道革新の市民の皆様の協力、市民連合の推薦で頑張ってまいります」と繰り返しました。村木事務所には共産党議員などは来ないでほしいとの意見がありましたが、選挙戦を通じてこうした意見は解消されていきました。選挙戦で共産党の果たした役割が大きかったからです。 
88票差の劇的勝利
私自身は、厳しいと思っていました。市議会議員は相手陣営12名。こちらは9名です。市議選での票差は約8700でした。結果は村木13786票(前回比+1831票)、沢井13698票(前回比+1529票)と88票差で勝利。投票率は41.48%(前回44.42%)。
開票の夜、新聞記者のほとんどが沢井事務所に行っていました。村木候補当選という結果が出て、記者たちが村木事務所に集まってきました。記者の話では井上信治議員が真っ青になっていたそうです。  
勝利の要因
市民連合として選挙総括の議論はしていませんが勝因としては、①市民連合として市民要求を掘り起こし政策化し、政策協定を結び、その実現を中心に訴えたこと。②市民連合が、野党議員の結束を促し、市民と野党の共闘の状況を作り出し、公明支持者の一部まで取り込み「オールあきる野」でたたかえたこと。③沢井市政が市民の声に耳を傾けず、実績もほとんどなかったこと。選挙公報も沢井候補は抽象的な内容であったのに対して、村木候補はズバリ市民要求を掲げたこと。④「市政チェンジ」のポスターやビラが市民の心をとらえたこと。⑤日常的に20ほどの市民団体が活発に活動し、様々な市民要求運動に取り組んできたこと。などがあげられます。 
市長と市民連合の協議、その後
選挙後の1025日に協定による第1回協議(懇談会)を開催。村木新市長は、就任前から台風対策をしていた、土地区画整理事業の予算執行をストップした、「るのバス」は来年度1台増やす、平和教育の予算もつけるなど政策の実現を語りました。
その後も「全国首長九条の会」に賛同し呼びかけ人になり、「オスプレイはいらない1124東京大集会」にメッセージを寄せています。
市議会は少数与党。政策の実現に難しさがあります。そのことを理解しながら「オールあきる野」として運動が一歩進んで、本当に市民と野党の共闘が進むように、頑張っていこうと思っています。

2019年11月28日木曜日

「9条改憲を先取りする大軍拡予算を許さない!消費税は減税を!軍事費削って、くらし・福祉・教育・防災に」11.27院内集会
     小田川全労連議長主催者挨拶
山口二郎市民連合(法大教授)
半田滋さんの講演
「安保法制下の自衛隊~踏み越える専守防衛」
宮本徹衆議院議員の国会情勢報告
参加者の発言 消費衛廃止各界連絡会
中央社保協
新婦人
安保破棄中央実行委員会

オスプレイは横田にも、日本にもいらない
東京大集会 2000人
荻原東京地評主催者挨拶
笠井亮議員の連帯挨拶、宮本衆議院議員も
和泉なおみ都議の連帯挨拶。尾崎、原都議らも
村木あきる野市長からのメッセージ
沖縄統一連 瀬長和男さんからメッセージ
東森安保破棄実行委員会事務局長から連帯の挨拶


2019年11月3日日曜日

11月3日

11.3憲法集会に10000人
立憲民主逢坂,共産穀田,社民福島挨拶
安部改憲発議阻止!、辺野古新基地建設やめろ!、東北アジアに平和友好!に1万人。なりぞうさんのオープニング、あさつゆ、島唄の歌のあと、菱山南帆子さんのコール。小田川さんが開会挨拶。
福島瑞穂、穀田恵二、逢坂せいじさんが挨拶。山添拓、吉良よし子さん参加。市民と野党の共闘の力
で、安部政権打倒!の発言。韓国運動団体から2名の発言。

作家の北原みのりさん、弁護士の杉浦ひとみさん、国際キリスト教大の千葉真さんらの発言が続きました。高田健さんが、緊急の行動も提起されるかもしれない、と閉会挨拶、最後にコールを行い、大きく盛り上がった11.3憲法集会となりました。

2019年8月30日金曜日

各地で真夏の平和の取り組み

8月、「東京大空襲を忘れない平和のつどい」や各地域で平和のための戦争展などが開催されました。ご紹介します。
三多摩
感動!感動!の「平和コンサート」
8月22日、三多摩革新懇・平和コンサート実行委員会主催の第22回「真夏の夜の平和コンサート」が、国分寺市立いずみホールで開催。平和の願いをこめてと題して毎年行われている恒例の歴史ある文化行事です。会場は、ほぼ満席。
 今年は、第一部が国立音楽大学に在学中の5人で結成された木管五重奏団「こんぺいとう」によるクラシックから日本のおなじみの歌謡曲までフルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットの音色の素敵なアンサンブルを堪能しました。
 第二部は、シンガーソングライターの梅原司平さんによるコンサート。梅原さんの歌声を聞きにいらっしゃった方がたくさんいます。73歳になる梅原さんは、みんなが納得・感動するトークを交え素晴らしい歌声をホールいっぱいに響かせました。
 最後に、梅原さん作詞・作曲の「折り鶴」を梅原さんと「こんぺいとう」のコラボによる全員合唱。三多摩から世界中に平和が届くような感動的な歌声になりました。
 感想もたくさん寄せられ、今年も大変好評でした。


大田区
40回大田平和のための戦争資料展
 「第40回大田平和のための戦争資料展」が同実行委員会の主催で824日~26日に大田区民プラザで開催。40周年記念として早乙女勝元氏の講演会、氏は「戦争への道はいやだ、その一言を惜しんではならない」と強調されました。定員を超える200名が参加、貴重な話に聞き入りました。 
今回初の試みとして、戦争遺跡ウオークを3回に分けて実施、毎回20名前後の参加者がありました。
 展示会場は満蒙開拓団・原爆と人間・福島・沖縄などの展示、慰安婦問題・教科書・絵手紙・九条アピールなど。
 小ホールでは朗読、合唱、講演などが行われ、いずれも多くの方が参加しました。
 来場者数は3日間で約550人に達し、アンケートの回収は100枚以上で、いずれも前年度を上回りました。
 総じて若い世代の来場が増え、こどもも多く見受けられました。大変熱心に見ている人が多く、世の中の動きに関心が高まっているのではないかと感じられました。継続は力なり、次年度も今回を励みとしてよい企画を考えていきたいと思います。

東久留米市
初めての「政治革新を語る納涼の夕べ」 
85日夕、東久留米革新懇の初めての「政治革新を語る納涼の夕べ」を開催。社民党の青木祐介市議、共産党の北村龍太市議と村山順次郎市議ら40人が参加。ケーナ、オカリナ、中国笛で、「芭蕉布」などのオープニング演奏。中村勤世話人(元大東文化高校校長)が開会挨拶。倉本朝夫事務局長が乾杯の音頭、冷たいビールでのどを潤しました。「チーム大太鼓」の5人が力強く大太鼓の演奏。飛び入りでの大太鼓たたきが呼びかけられ、6人が挑戦しヤンヤの喝采。
3市議の発言の後、参加者からは「参議院選挙で改憲勢力を3分の2以下に押しとどめたことを喜び、衆議院選挙でがんばろう」「17年の衆院選以来、東京の各選挙区で、国会議員や政党との懇談会、対話集会、署名の共同行動などが継続して行われている。今度の衆院選で勝利するために、更に力を合わせ共同を進めよう」などの発言がありました。最後はアコーディオンとギターの演奏で「青い山脈」「青い空は」「椰子の実」「沖縄を返せ」などを歌い、大きく盛りあがった納涼の夕べとなりました。

文京区
「平和を願う文京戦争展」に1500人の大盛況 
文京区真砂町生まれの村瀬守保氏が撮影した日中戦争の写真五十点を展示した写真展(8810)。中には南京虐殺や「慰安所」での加害の記録もあり、「戦場の狂気が人間を野獣に変えてしまう」という同氏のメッセージを伝える写真展。どれだけの人に見てもらえるか不安の中の開会日は、開始時間を2時間以上繰り上げて開場。多くの人が次々と入場し、途切れることなく初日だけで四百人を超え、連日盛況で、千五百人に上りました。南京虐殺を告発する写真の前には人だかりするなど、関心を呼びました。
 三本の証言DVD上映の場所には常時立ち見も含め真剣な眼差しの人でいっぱい。十日の「文京の空襲体験者語り部」は百人近い人が集まり、大盛況。アンケートも四二七人から寄せられ、関心の高さと共に加害の歴史に正面から向き合うものになりました。
 中学生は「罪のない人が大勢まき込まれる戦争が二度とおこらないようになってほしいと思う。写真で当時の状況が知ることができました」、高校生は「教科書の資料では全然足りないと思う」との感想を寄せてくれています。

北区
共同団体との交流が深まった恒例の「納涼のつどい」 
猛暑の83日、北区王子の北とぴあで恒例の北区革新懇「納涼のつどい」を開催、69名が参加しました。池内さおり事務所長の須藤武美(タケヨシ)さんが「参議院選挙の結果からみえてくるものー政治革新を展望して」とミニ講演。主催者あいさつ・乾杯に続き、会員のYさん・Nさんの「南京玉すだれ」。「3分間」スピーチは、福田光一区議(新社会党)の「安倍政権はまだまだ改憲を諦めてはいません。気を引き締めて改憲反対の世論をつくっていきましょう」のメッセージが冒頭紹介されました。
スピーチではこの間、共同の関係を強めてきた北区地域ユニオンの西村書記長、みんなで選挙@東京12区の平松共同代表、「未来のまちをつくる会・北区」呼びかけ人の柴田武男さん(聖学院大学)をはじめ、区内の団体・政党代表と個人など16名の方がスピーチしました。
最後は新婦人北支部の「みんなで歌おう」で大いに盛り上がりました。
感想では「やや若い方や新しい層の方々が増えて頼もしいです」「集いの盛況良かったです。衆院選挙頑張りましょう!」などの感想が寄せられました。

  

2019年7月23日火曜日


高まる日米地位協定改定の気運
 平和新聞編集長 布施祐仁 


今、日米地位協定の抜本的な改定に向けた機運が高まりつつあります。
 全47都道府県の知事が参加する全国知事会は昨年7月、日米両政府に対して日米地位協定の抜本的な見直しなどを求める「提言書」を全会一致で採択しました。
 これを受けて、全国の自治体議会でも日米地位協定の改定を求める意見書の採択が相次ぎ、採択自治体は今年7月までに7道県152市町村にのぼっています(安保破棄中央実行委員会調べ)。採択は米軍基地のない県でも広がっており、長野県では、全78自治体中41と半数を超えました。これは、これまでになかった動きです。
 国政においても、7月の参議院選挙において、立憲民主、国民民主、共産、社民の野党各党がいずれも日米地位協定の改定を公約に盛り込みました。
 また、政権与党の公明党も昨年8月、日本政府に対し、日米地位協定の見直しを提言しました。
 しかし、肝心の日本政府は、口では「日米地位協定のあるべき姿を不断に追求する」と言いながら、実際には「運用改善」で対応する従来の姿勢を変えていません。
 日米地位協定の改定を実現するためには、さらに世論と運動を高め、改定に後ろ向きな日本政府の姿勢を変える必要があります。

 
 全国知事会の「提言書」は、「日米地位協定を抜本的に見直し、航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させることや、事件・事故時の自治体職員の迅速かつ円滑な立入の保障などを明記すること」を求めています。
 日本では、在日米軍の活動に航空法や環境法令などの国内法が適用されず、米軍機による低空飛行訓練や基地周辺での環境汚染が大きな社会問題となっています。米軍が日本の主権に制限されずに日本国内で自由に活動できる特権を保障しているのが日米地位協定なのです。
 米軍は、日本の航空法が禁じる高度150メートル以下の低空飛行や、市街地に囲まれた基地でのパラシュート降下など危険な実戦的訓練を繰り返しています。こうした訓練は、アメリカ本土ではもちろん、米軍が駐留する他の国でも許されていません。
また、沖縄県の嘉手納基地周辺では、湧き水や河川が発がん性のある有害物質で高濃度に汚染されていることが明らかになり、一部で使用できない状態になっています。沖縄県は3年前から同基地への立ち入り調査を求めていますが、米軍が認めず実現していません。このような理不尽な対応も、他の国ではあり得ないことです。
沖縄県は一昨年、当時の翁長雄志知事の指示で、米軍が駐留する他国の地位協定に関する調査を独自に開始しました。文献による調査だけでなく、実際に職員をドイツ、イタリア、イギリス、ベルギーの4カ国に派遣し、関係者にヒアリングを行って地位協定の運用実態を調査。その結果をまとめた報告書を今年4月に公表しました。これを読むと、日本とのあまりの違いに驚くばかりです。
 イタリアでは、かつて米軍機による低空飛行訓練が問題になっていましたが、米軍機がロープウェイのケーブルを切断して乗客ら20人が死亡した事故を機に、米軍機の飛行に対する規制が大幅に強化され、低空飛行訓練はできなくなりました。
このような規制ができたのは、米軍がイタリア国内で活動する場合、イタリア側の事前承認を受けることと国内法を順守することが二国間協定で義務付けられているからです。沖縄県のヒアリングに応じたランベルト・ディーニ元首相は「ここはイタリアだ。米軍の全活動にはイタリア軍司令官の許可がいる」と言い切りました。ドイツでも同様に、米軍機の訓練にはドイツ側の承認とドイツの法令順守が協定で義務付けられています。
米軍基地で環境汚染が発生した場合の対応についても、基地の管理権をイタリア軍司令官側が持つイタリアでも、協定に立ち入り権が明記されているドイツでも、受入国側がいつでも基地内で調査することが可能となっています。ドイツでは地元自治体の職員がいつでも基地に入れるように、「年間パス」が発給されているといいます。
目を見開かされたのは、協定にイタリアやドイツのような明文規定がないイギリスやベルギーでも、米軍の活動にそれぞれの国の国内法が適用されていることです。
イギリスでは、英空軍の規則で外国軍隊の飛行を禁止・制限できると規定しており、ベルギーでは、1990年の航空法改正で外国軍隊の低空飛行を禁止しました。改正当時、ベルギー国防省の官房長を務めていたミシェル・マンデル元空軍大将は、沖縄県が行ったヒアリングに「『ベルギーの航空法を守る必要がない』というように考えるような外国空軍はなかった」と話しています。
基地への立ち入りについても、地元自治体には当然認められているという考え方がとられています。ベルギーの米軍基地の広報官は、沖縄県のヒアリングに「周辺自治体のの首長が基地内への立ち入りを希望した場合には、当然許可する。基地はベルギーの国土内にあるのだから」と語っています。日本での対応とはえらい違いです。
こうした事実から言えるのは、明文規定がなくても、外国の駐留軍には原則としてその国の国内法が適用されるのが「世界の常識」だということです。万国国際法学会の事務総長を務めたこともあるベルギーの国際法学者ジョー・ヴェルオーヴェン氏は、沖縄県のヒアリングに、「一般的に、特別な取り決めがない限り、駐留軍には受入国の国内法が適用される」と明言しています。
 一方、日本政府は「一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り受入国の法令は適用されない」(国会答弁)という立場をとり続けています。驚くべきことに、「世界の常識」とは180度異なる国際法の解釈で国民をあざむき、治外法権とも言える米軍の理不尽な特権を容認してきたのです。
 ベルギーのように慣習法としての国際法が通用しないのであれば、やはり協定に国内法適用や自治体の立ち入り権を明記する必要があります。そうしなければ、国民の命と人権は守れません。 
根底に存在する日米安保の本質 
 トランプ米大統領は最近、「アメリカは日本防衛の義務を負っているのに、日本にアメリカ防衛の義務がないのは不公平だ」と日米安保条約に対する不満を重ねて表明しました。
 この発言の一つのねらいは、米軍の駐留経費を日本が負担する、いわゆる「思いやり予算」の増額を日本に要求する布石だと思われます。
 「思いやり予算」を払う根拠となっている「特別協定」は来年度末で期限が切れるため、協定更新のための交渉が近く始まる予定です。
 日本は毎年、約2000億円の駐留経費を負担しています。この額は世界でも断トツで、日本以外の主要な米軍駐留国の負担をすべて足した額を上回っています(グラフ参照)。それでも、強く要求すれば日本はもっと出してくれるとでも思っているのでしょうか。
 そもそも、日米地位協定には米軍の駐留経費はアメリカが全額負担すると明記しています(24条)。協定上は日本に支払う義務のないお金なので、「思いやり予算」と呼ばれているのです。
 なぜ日米地位協定は、米軍の駐留経費を全額米側が負担すると規定しているのでしょうか。それは、アメリカにとって米軍の日本への配備は、第一にアメリカの国益のためだからです。
 1990年代に米議会で日本が日米安保にただ乗りしていると批判が高まった時、当時国防長官だったディック・チェイニー氏は「(米軍駐留が)日本のためというのは正確ではない。日本で空母部隊を維持する方が、合衆国の西海岸で維持するより安上がりだからだ」と発言しました。
 日米地位協定をめぐっても、その不平等性を日米安保条約の「片務性」と関連付けて正当化する論調も今後出てくると予測されます。それに対しては、米軍の駐留は日本防衛のためではなく、日本を拠点に米軍をいつでもアジア・中東地域に展開できる態勢を敷き、グローバルなアメリカの国益と覇権を守るためのものであるという日米安保の本質を多くの人たちに知らせていくことが重要になってくるでしょう。それは日米安保体制のあり方を見直す契機にもなります。